12月号イラスト
イラストレーション:火取ユーゴ

山下洋輔の文字化け日記

第107回 2011,1月

マ月クラ日。女子バレー日本代表の試合。2セット連取で予定放送時間があと30分だから、勝ちと思ったら放送延長の末ロシアに負けちゃった。今は録画編集じゃないのかな。以前に「放送時間と内容を見れば勝敗はすぐに分かる」と馬鹿にしたら改善した。って、お前のせいじゃないっていうの。でもすごく昔に「バレーボールのワンタッチの判定はいい加減で分からない」と書いたらその後ワンタッチは3回タッチに数えなくなったのよ。ワシが何か言うと改善されるのよ。もっとも今の「思い」問題だけはぜーんぜん駄目だけどね。と書いているこの瞬間に女子バレーは世界3位になった。えらいえらい! でもこれをメモしている日時がばれてしまった。
てなことをこの場をお借りして十年間ほざいてきたが、この欄、今回を持ってひとまず終了であります。例によってこのひと月間何をしてきたか思い返しながら、お別れすることにしよう。

京月響日。広上淳一氏指揮の京都市交響楽団で京都・八幡市文化センターと丹後文化会館を2日連続で「ラプソディ・イン・ブルー」。予定にないアンコールをソロで弾いたり、「中川先輩」のご夫君がホルンをやっていて歓談したり楽しい時間続出。「中川先輩」とは息子が葉山中学の時に吹奏楽で並んでトロンボーンを吹いていたあこがれの女子先輩だ。その後フルートに転向して早くから京響に入団している。今回はノリバンではなかったのでご夫君ともども携帯で話をして盛り上がった。

釧月路日。釧路の名物ジャズバー「ブックエンド」のマスター榎本隆さんの三回忌で、これも名物ジャズ喫茶「ジスイズ」でソロ・コンサート。ニューヨーク・トリオ用の新曲を披露した。その後この曲は「Elegy」というタイトルが付いてトリオのFavorite Songとなった。和子ママが引き継ぐ「ブックエンド」で大勢で打ち上げ。ステージでチュニジアの話題で「漢字でどう書くか」と言ったら、教えてくれるマダムが現れた。「突尼斯」と「突尼西亜」の二種類があるらしい。感謝。

瀬戸内月海月。瀬戸内国際芸術祭で、ペインティング・アートの西村記人氏と共演。場所は豊島で児童数30人の豊島小学校でやる。広い畳部屋の控室にいると廊下からのぞき込んだ子供たちが次々に入ってきてそばに座り込む。自然にべたべたしてとても可愛らしい。パソコンで猫の写真を見せたり燃えるピアノを見せたりして友好を深める。本番は一般客も詰めかけて小さな体育館は満員。その中で絵の具飛び散る西村世界が炸裂した。高松との往復は曇天荒波の中、小型高速ボートでバシャンバシャンと波間を飛ぶようにして移動した。

溝月上日。高松から電車を乗り継いで宇部へ。恩師の作曲家故溝上日出夫先生の御夫人英子さんのご実家が宇部で、完成したスタジオにかけつけてお祝いパーティだ。以前の日出夫先生の一周忌には、弟子たちが曲を創って捧げたが、その時に先生の盟友の陶芸家の原田隆峰先生が作詞した「埋み火」をおれに作曲しろとのご命令があった。何とか歌曲にしてソプラノの英子夫人に歌っていただいた。その第一楽章を二人でご披露。あとはジャズピアノ・ソロコンサートになった。クラシック音楽に詳しい方々が集う本当のサロンという感覚の中、ジャズ者として、心おきなくアバレてきた。隆峰先生ともどもその後のワインパーティを楽しみ、15分で行ける宇部空港から最終便で空路帰京した。サロンの段取り、スマートなんですよね。

NY月T日。と言っているうちにニューヨーク・トリオの季節になった。今回は来日してすぐにレコーディングだ。金子飛鳥(vn)率いるストリング・カルテットと共演四曲。「Chase」「Dancing Vanity」「廃屋のアリア」「Memory is a Funny Thing」。トリオに飛鳥入りで「Flight for Two」。トリオで「Chat in a Dream」「Elegy」「Dear M」「I'll Remember April」。これらをもってツアーへ。名古屋「ラブリー」、阿佐谷神明宮能舞台、横浜「モーションブルー」、甲府「桜座」、京都「ラグ」、晴海「第一生命ホール」(ストリングスと共演)、西宮「兵庫県立芸術文化センター」、奈良「橿原文化会館」。最終の奈良は吹奏楽団「セントシンディ」との共演で超豪華な打ち上げが用意されていた。翌日二人は関空から帰国。いつものことだがガクっと寂しくなる。

流れる月日。その後もラブリー40周年、峰厚介グループと共演した広島「ここに幸あり」コンサート、狂乱前夜祭付き桐生市東公民館でのソロ、一柳慧作曲ピアノ協奏曲の大阪本番(指揮藤岡幸夫・関西フィル)、習志野で金子竜太郎(和太鼓)、梅津和時(reeds)、寺久保エレナ(as)、神奈川県民ギャラリーで美術家泉太郎氏の個展に、一柳先生、有馬純寿氏と猛烈セッションで乱入。そしてサントリーホールで一柳コンチェルト。なんとその夜はブーニンのコンサートもある。「昼見に行く」との情報もあって大騒ぎ。このような狂乱の日々の中、山下、何とか生きております。皆様もどうかお元気で突進してください! イラストの火取ユーゴさま公私に渡ってありがとうございました! ではでは、また方々でお会いしましょう! もっと言いたいけど、あ、字数が字数が字数が・・・