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muji . 2009.07 .
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イラストレーション:火取ユーゴ
  山下洋輔の"文字化け日記"
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文庫月本日 おかげさまでこの連載「文字化け日記」が文庫本になった(小学館文庫より好評発売中)。2001年6月号から始めてもう8年経つのか。第1回からのものを抜粋してあるので、雑誌には載っていたのに本には載っていないエピソードもある。オイカリのムキも生じるかもしれないが、平にご容赦。

G月W日 今年のゴールデンウィーク「ピットイン3デイズ」は山下プロデュースで初日が、寺久保エレナ(as)、挾間美帆(p, key, 作・編曲)、玉木正太郎(b)、山内陽一朗(ds)のセッション。17歳になったばかりのエレナちゃん、ますます凄くなっていてセカンド・セットに入れてもらった山下もたじたじ。エレナ曲、挾間曲入り乱れる中、山下曲の「幻燈辻馬車」が挾間キーボードも参加で絶品に仕上がって大感謝。

 二日目、金澤美也子(key, voice)率いるプログレ・ロックバンド「る*しろう」登場。井筒好治(g)、菅沼道昭(ds)。5年前に初めて聴いて「何だこれは!」とぶっ飛ばされた。ファースト・セットで「る*しろう」の全得意技炸裂。変態リズムの極限合わせ、爆笑ユーモアと高級センス、すぐに真似したくなるピアノ音楽のアイディア、超絶的爽快爆音ガイキチ音楽の最後は美也子の異次元ボーカルでとどめを刺された。セカンド・セットでは美也子作曲の「キアズマが好き」その他に単身突入して狂乱の中で自爆。
 三日目は5年目に入ったニュー・カルテット。米田裕也(as)、柳原旭(b)、小笠原拓海(ds)。小笠原は山下達郎バンドでツアーの途中を捕まえて拉致。この日は特別セットを設けて一柳慧作曲「ピアノ協奏曲第4番"JAZZ"」の第一楽章をこのカルテット・バージョンでやった。これから世界初演するこの曲のソリストとして、練習兼度胸試しをさせていただくという図々しさだ。客席には一柳先生と指揮の藤岡幸夫さん出現。事前に「全然ちがうものになりますから」と言い訳をしまくる。幸い面白がっていただいたようで、演奏後拍手の中で一柳先生をご紹介するとステージに上がって下さった。一柳慧と一緒にピットインのステージに立っている! これはえらいことですよ。半世紀近く前にバイオリニスト時代の小野洋子をグランドピアノの中に寝かせて「これが音楽だ」と言い張った元祖過激派だ。これ、MK(前に聞きました)かもしれないけど、何度でも言わせていただきます。

題月名日 テレビ番組の「題名のない音楽会」が、7月19日に日比谷野音でやる「山下トリオ復活祭」に興味を持ち、2週ぶち抜きでトリオの歴史を番組にしてくれた。坂田明(as)、森山威男(ds)、ニュー・カルテット、金澤美也子。元祖「キアズマ」と「キアズマが好き」が入り乱れ「乙女の祈り」がフリージャズになり「トリプル・キャッツ」も飛び回るというさ中にタモリが現れて喋りまくってくれたのには感激。放送は6月最終週と7月第1週の日曜日朝9時です。お確かめください。

タモ月リ日 そのタモリは新宿のジャズスポット「J」の株主。「J」創立者は金澤美也子の父親の故ジミー金澤(as, vo)だ。「題名〜」の時にはゆっくり会えなかった二人が「J」で顔を合わせるというので、わしも行くと言って乱入した。三人で散々話す。藤田佐奈恵(vo)、小池純子(p)、山口裕之(b)、水口泰邦(ds)のセットでもり上がった店内の休憩時間に、オーナーの幸田稔氏のお誘いで一曲乱入。タモリも呼び上げて究極の「でたらめブルース」が実現。このタモリは正に入神のガイキチ天才で満場沸騰した。

メビ月ウス日 美也子が仕事で退席、おれも直後に失礼してそのまま「四谷メビウス」にハシゴ。山崎史子(vib)ライブ。藤田明夫(fl, sax)、挾間美帆(p)、木村将之(b) 。良い気持ちで聴き終わった直後に、呼び上げられて何かやった記憶もあるが、あれは夢か。久々のバンドマン・クルージングの一夜でした。

ポー月カー日 ニュー・カルテットで久々のツアー。名古屋「ラブリー」、彦根「エコーホール」、京都「ラグ」、愛知吉良「インテルサット」と巡る間に連日ポーカーをやりっぱなし。バンドマンはブルースとディミニッシュ・スケールを覚えたらポーカーが出来なければいけないという思想のもとに去年からの恒例行事になっている。とはいえ言い出しっぺの山下は今まで一度も勝ったことがない。しかし、今回、最初の回に山下にフルハウスが入って、しかもセブンカードの表の札は弱々しいものだったので、フラッシュやストレートやスリーカードをつかんだ皆が最後までアップしながらついてきた。やがてコールになった時には山下の大勝ちになった。金が足りないと言うのでそのカタに、ポルシェと芝公園と米軍の駆逐艦を一隻手に入れることになった、ってこれは嘘だけど、同じような話は昔のバンドマン先輩達に結構あるんですよ。
 ツアー4カ所どこもびしびしに盛り上がり、打ち上げはガシガシに華やかで後味最高でした。御礼申し上げます。



「CDジャーナル」2009年7月号掲載
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