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muji . 2008.09 .
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イラストレーション:火取ユーゴ
  山下洋輔の"文字化け日記"
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小月倉日 北九州の「響ホール・フェスティバル」で松原勝也(vn)出演日に渡辺香津美(g)とゲスト出演。二日前に前乗りして連日、林直樹マスターのジャズ喫茶「Jazz Street 52」に通う。同い年で気が合って気がついたら義兄弟になっていた。マイルス、エルヴィン、マルなど片っ端からかけてもらって、聴きながらべらべら喋りまくる。マスターも喋りまくる。35年以上のつき合いだからいくら喋っても話が尽きない。本番の後には香津美さん、夫人の谷川公子さん、別の日にクラシック・コンサートをする松原夫人の鈴木理恵子(vn)さん、高平さん(これは思わずタカヒラさんと言ってしまうがガオ・ピンという注目若手クラシック・ピアニスト)、それにヴィオラの柳瀬省太さんも来てジャズ喫茶打ち上げとなった。話す内に、なんと林さんの娘さんの名付け親が香津美さんだということが判明した。林さん主催のコンサートで開演時間ジャストに生まれた。それを聞いた香津美さんは、ステージでアナウンスをして「Child Is Born」を弾いた。女の赤ちゃんで、名前がそのまま「香津美」になったのだ。その香津美ちゃんは今30才。時間は確実に流れている。翌日は、常連でFM局のディレクターのジュンコさんが見送ってくれた。北九州空港名物の角ウチの店で伊佐美のロックをつき合ってくれた。小倉女の心意気に感謝。



羽佐間月正雄日 元NHKのスポーツアナでオリンピック中継11回連続出場という世界記録保持者羽佐間正雄さんの出版記念パーティに行く。何もしなくてよいパーティは久しぶりだ。何しろ発起人に赤穂浪士の羽佐間にちなんでずらりと並ぶ四十七人の名前が、長嶋、王、星野、野村、張本、大沢、原、川淵、以下同文の物凄い名前ばかりで、おれは山下泰裕と山本浩二にはさまれてぺっちゃんこになっている。なぜこんな所にいるかというと両親が正雄さんの仲人なのだ。弟で声優の羽佐間道夫さんとの親戚付き合いもそのせいだ。音楽は法政大学のビッグバンドが務めていた。以前共演した連中の顔も見えて、やあやあと挨拶をする。おかげでゆっくり社交を楽しめた。囲碁の女流棋聖の梅澤由香里さんに会えたのは幸運だった。さらに関根潤三さんを見つけて近寄っていけたのも大収穫だった。横浜ベイスターズの監督だったこともあるが、それとは関係なく、以前から関根さんのやることなすこと全部好きなのだ。一緒に写真を撮っていただいた。イメージ通りの飄々とした方だったが、どこか肝の据わったユーモア感覚をお持ちとお見受けした。



ビッグ月バンド日 Yosuke Yamashita Special Bigbandのオーチャード公演。エリック宮城、佐々木史郎、木幡光邦、高瀬龍一(tp)、松本治、中川英二郎、片岡雄三、山城純子(tb)、池田篤、米田裕也、川嶋哲郎、竹野昌邦、小池修(sax)、金子健(b)、高橋信之介(ds)という錚々たるメンバーで、第一部「Rock'in in Ryhthm」「Waltz For Debby」「Groovin' Parade」「Bolero」、第二部「BayStars Jump」「First Bridge」「Rhapsody in Blue」、アンコール「It Don't Mean A Thing If You Ain't Got That Swing」と全編炸裂した。松本治編曲の「BayStars Jump」は横浜ベイスターズ応援歌のビッグバンド・バージョンで販売グッズCDにも入っている。今年の成績に怒った山下の発作的強権発動でプログラムに入れた。今や世界一の高音トランペッターのエリック宮城の義理の父上が大の横浜ファンでエリックがこの録音に参加したのを喜んでくれたという。ありがたいことだ。松本治編曲「Bolero」は革命的ボレロで、筒井康隆さんがブログに「脱臼したボレロ」と書いた。フリーミュージック入りで、ボレロのリズム概念を覆すこの作品を、世界中で演奏したいと願っている。



春日月井日 ビッグバンドはこのまま春日井市民会館へなだれ込む。春日井市は例の「のだめ」が全国的な人気になる以前に茂木大輔(ob.cond.)主宰の「のだめオーケストラ」のコンサートをやって大成功を収め、茂木をして「のだめの聖地」と呼ばせた所だ。独特の創造的企画力が際立っている。終演後、推進者の小松女史たちと乾杯。



海苔月ラーメン日 ビッグバンドのメンバーでもある米田裕也(as)はラーメン好きを自称しているので「あの海苔はどうやって食うのだ」と聞くと「麺を捲く。汁につけて別注文のご飯に乗せる」など調べてきた。茂木大輔にこの話をすると「あれはシナシナになる様子で時間を測る時計の代わりではないか」とのご意見だ。海苔で時間はかって何をどうしようっての。



「CDジャーナル」2008年9月号掲載
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