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muji . 2008.07 .
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イラストレーション:火取ユーゴ
  山下洋輔の"文字化け日記"
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参月戦日 ここで書いたでたらめ外国人名前に刺激されて斯界では有名なジョーク・小話収集家の、つのだたかし氏(ひろ氏実兄で古楽器奏者)が参戦してきた。韓国人の高利貸は、金貪欲(キム・ドンヨク)。さすが。以下は名前ジャンルから離れた作品。キリスト教徒たちは梅干のことを何と言うか「酸味いっぱい」。分かりますよね? 中国人若手チェリストがデビューしたが腕前は大先輩にかなわない。その名はマーマー・ヨ。話題のダライ・ラマが小学校から帰宅したとき何と言ったか? 「だらいらまー!」。千葉県のある地方で爆発的に流行したボサノバの名曲は「The Girl from インバヌマ」。いやあ、波状攻撃に悶絶しました。

In月F日 指揮佐渡裕・東京フィルでガーシュインの「コンチェルト・イン・F」。神奈川県立音楽堂の「神奈川国際芸術フェスティバル」のなかの一日。芸術総監督の一柳慧御大から一年前に御下命が下っていた。マラソン競技に初めて出場するために一年がかりでトレーニングをやってきたようなものだ。指を鍛え、コースを何十回も走ったり歩いたりして暗譜した。本番では給水に失敗してよろけ、他選手と接触してつまづくなどしたが、指揮者に助けられ、何とか競技場に入り、必死のラストスパートでゴールインしたら大歓声に迎えられた。よかったよかった。え、順位は何位だった?それを聞くなー!



Pit月Inn日 ピットイン2デイズの初日はニューカルテットにフルートのMiyaを迎える。最初のセットはMiyaのアルバム「Miya's Book」からまずデュオで「Dialogue」、それから「水の中できいたこと」、「こどものうた」、「祭り」。セカンドセットは、「やわらぎ」、「ドライヴィング・フーガ」、「グルーヴィン・パレード」、「クルディッシュ・ダンス」。一曲目の「Dialogue」の出だしの自由さであっという間に連れて行かれるMiya世界は深い。「祭り」のメロディックな部分は山下の「Memory Is A Funny Thing」のヒントになっている。これ企業秘密。Miyaはもはや堂々たるリーダー・アーティストの貫録を備えてきた。
 二日目は中村尚平(ss)、米田裕也(as)、安川信彦(ts)、住田明日香(bs)の4サックスに小笠原拓海(ds)という編成のスペシャル・グループ。クラシックのサックス・カルテットのために書いた挾間美帆の作品をジャズイディオムでできたら面白いと山下が考えたのが発端。全曲挾間美帆編曲で、最初のセットは山下曲の「やわらぎ」。「トリプル・キャッツ」、「幻燈辻馬車」、「Memory Is A Funny Thing」、「グルーヴィン・パレード」。二セット目はピアノソロ。そのあとの挾間曲「For Six-1」と「For Six-2」では挾間にピアノを弾いてもらった。リハの間にこの二曲だけは本人が弾く方がよいと判断したためだ(真相は山下が恰好いい書き譜についていけない?)。次の「Modern Portrait 2」にはなんとか参加。その後、「クルディッシュ・ダンス」。菊地成孔が捏造した名言「そんなものはナイトクラブのクセナキスだ!」を目指す最初の一夜となったと自負している。



題月名日 ここに何度も書いたピアノ・コンチェルト第3番「Exoplorer」の初演の指揮をしてくれたのも佐渡裕さんだった。あの直後、佐渡さんが「題名のない音楽会」の司会者になって、気に入ってくれたのか、番組に呼ばれて「Exoplorer」の第三楽章を再演出来ることになった。最初に「Rhapsody In Blue」を中間部のスローパートからやり、次に編曲の挾間美帆の紹介(これがメインという説もあり)を兼ねて三人でトークをやり、最後に第三楽章をやった。トークでは、スケッチをニューヨーク・トリオの演奏で送りつけて来るなどの山下の暴挙が挾間にバラされてしまった。6月29日のオンエアでお確かめください。



筒月井日 「筒井康隆、筒井康隆を読む」と題された朗読会の助っ人。下北沢のタウンホールを三日連続で満員にする筒井さんの人気はさすがだ。「おもての行列なんじゃいな」の独演のあとピアノソロで「Triple Cats」、エリントンの「昔はよかったね」。そのまま筒井さんの「昔はよかったなあ」の朗読を伴奏。第二部は、1964年の「スーパージェッター」から2008年の「ダンシング・ヴァニティ」まで全156編の筒井作品のタイトルが次々に現れる画面を見ながら約十分間の即興演奏。強力なセッション相手でほとんど圧倒され続けだ。次に筒井さんが「関節話法」を演じてこれで場内大爆発。最後に台から飛び降りて股関節を鳴らすところで全員悶絶した。アンコールは「発明後のパターン」新旧二編を共演。無事にシルベスタロンがシガニウィバった。楽屋にメゾン・ド・ショコラの木箱入りが出現。持ち込みのシャンペンと共に祝う。三日間、楽屋で光子夫人共々ご一緒させていただいた。お二人といると本当に心が安らぐ。打ち上げには朝倉摂先生も参加。筒井邸お掃除コンビで今回の企画の実行者、上山克彦、中村満共々スタッフ一同演出の高平哲郎から大入り袋を名指しで手渡してもらう。古いけどいいなあ。一本締めでお開きとなった。



「CDジャーナル」2008年7月号掲載
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