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muji . 2001.06 .
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. 山下洋輔の"文字化け日記"
イラストレーション:火取ユーゴ
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 というわけで、今回からお邪魔することになった。どうかよろしくお願いします。日記でも書いて見ろということで、バンドマンの日々のヨシナシゴトなど適当にほざくつもりだ。これ、本当は自分のHPでやらなければいけないのに、あっちは去年の8月以来日記の更新してないのよね。なぜかなあ。報酬の有無が動機に関係するのかなあ。HPのスタッフは怒るだろうけど、そうだとしたら骨の髄までドンバ化しているんだね。



4月1日 毎年恒例のカザルスホールでのソロ・リサイタル。今年は去年出たソロの新譜「レゾナント・メモリーズ」の内容なので楽に思いっきりできた。中にまぜて NHK大河ドラマ「北条時宗」のテーマ曲「蒼風」のピアノソロ版もやる。これは本編、予告編のあとのご当地紹介の景色と共に毎週名前入りで流れるので、段々バレてきた。このコーナーは新人の宣伝の場としてまことにオイシイものなので、多数の自薦他薦があったらしいが、メインテーマの作曲者で音楽監督の栗山和樹氏が、すべてを厳重審査のうえでヤマシタに決めたらしい。ありがたいことで、結果、ジャズジジイの登場となった。該当の皆さま、すみません 。


4月7日 韓国ソウル。4日から今日まで大学路の文芸会館で金徳洙(キム・ドクス)氏のリサイタルの助っ人をヴァイオリンの金子飛鳥さんと共にやる。ドクスさん、今回はサムルノリは率いず、前例のないチャンゴ・ソロに挑戦。第一部で、50分間一人で叩きまくった。
楽器がたった一種類というのは打楽器のリサイタルとしても前例がないのではないか。韓国音楽のリズム構造の底の知れぬ複雑さ美しさと相まって、まったく飽きさせず、会場大絶賛の嵐。長年の音楽活動によって今や国民的英雄のドクスさんの久々のリサイタルで、ロビーは祝い花の山。大統領夫人、次期大統領候補など政治関係者の名前も多数あったと聞く。折しも「教科書問題」勃発中だったが、助っ人日本人二人は、韓国民謡を独特の歌声とバイオリンでCookした飛鳥さんのおかげもあって、第二部の共演後に盛大な拍手と歓声と笑顔をいただいた。
打ち上げでは日本では見たこともない数々の韓国料理を何種類ものキムチとビール、マッコリと共に腹におさめ、陶然となる。韓国料理中毒は帰国直前まで続き、空港の食堂で時間ギリギリまでビールでキムチをむさぼり食うというドロドロパターンに必ずなる 。



4月10日 前日、洗足学園大ジャズコースのオリエンテーションに顔を出して、そのまま、青森県の野辺地に来ている。「ホットジャズ・イン・ノヘジ」の十周年記念コンサートに向井滋春(tb)、八尋知洋(perc)との変態的室内楽団「八向山」が招かれた。このグループ名の由来はご推察いただきたい。
日本の地方のジャズコミュニティーにはさまざまな形があってそれぞれにバンドマンを支えてくれるが、ここにもさまざまな職業の方がたがいる。他に例のないユニークな存在が「ジャステラ」というお菓子で、メンバーの一人のお菓子屋さんが十年前のジャズコンサートを契機に作って売り出したら、ヒット商品になって今でも一番売れているそうだ。すごい町ですね。本番ではリクエストがあり、ご当地の「野辺地音頭」をCookしろというもの。これがエキサイティングな演奏になり双方満足した。「こうなったら全国の市町村の音頭をやりまくるか」とバンドマンはすぐに図に乗る。全国の市町村の皆さん本気にしないでください。
盛大な打ち上げでは「すいんぐ」という名の日本酒まで出てきた。まいったなあ。



4月14日  神田TUC。四十年来の友人で、先頃「定年ジャズ歌手」としてCDデビューした上山高史氏のリサイタルの助っ人。歌伴を楽しむ。そういえばこのところ歌伴づいていて、先月は綾戸智絵さんとやり、4月末には久しぶりに浅川マキさんとやることになっている。上山氏は実はある年代以上の日本人なら誰でも知っている戦後のラジオドラマ「鐘の鳴る丘」の主題歌を歌っていた早熟少年だった。折角だからリクエストをしてその曲をやってもらう。全編ルバートにして、伴奏はリハモをつけまくり、最後に鐘の音を響かせた。


4月17日 フランス在住の画家松井守男が「シュバリエ章」を受賞したお祝いパーティが帝国ホテルであった。松井氏とは1965年以来の付合いだ。パリ時代にはパリ・ジャズフェスへの出演、コルシカに移ってからはソロピアノ・アルバム「キャンバス・イン・クワイエット」の制作に大きな力を貸してくれた。大村崑氏司会で大盛況の式の最後には、パリ時代の友人デヴィ夫人も祝福に登場。パリやモナコでの彼の交友関係の広さ意外さにはいつもびっくりする。当方のお祝い演奏は、コルシカ民謡ベースのものと「ボレロ」だった。


「CDジャーナル」2001年6月号掲載

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