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muji . 2000.11.08 .
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photo by YO-RI MORI (GENMDO)

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. レゾナンス&スパークス(3)

第三夜、ビック・バンド直撃インタビュー

以下は、11月8日に天王洲・アートスフィアで行われたライブ、「レゾナンス&スパークス、山下洋輔ビック・バンド」のプレイ後のインタビューです。


[インタビュアー]── 今日、11月8日の東京での連続コンサート3晩目は、ビッグ・バンドでの公演でしたが、このツアーはまだまだ続くんですよね?

 ニューヨーク・トリオのツアーとしては、今日が、ちょうど中日。
 このあと釜石、長野、柏と残っている。だけど、このビッグ・バンドのコンサートは、今日が初演。このあと来年の5月にニューヨークのスイートベイジルで演ろうと思っているので、長いツアーのはじまりでもある、というのが今夜です。



── 今日のビッグ・バンドのコンサートのためには、どんな準備をされたのでしょうか?

 まずやる曲を決めて、メンバーを探す、それと同時にアレンジャーに編曲を頼む、そこまでだけで何ヵ月もかかる。アレンジャーに頼む時には、その曲をどんな風にしたいか伝えて譜面を渡すんだけど、その時にメンバーやソリストが決まっていれば、それもアレンジャーに伝える。誰がやるのかわかっていた方が、アレンジしやすいからね。


── アレンジの曲想というか希望を伝えるのは、譜面に書き加えて渡すのですか?

 いや、言葉を書くの、びっしりね。ここはこうして欲しいとか、ここでこんな風にフリースタイルに突入とかね…。


── 譜面になったビッグ・バンド用のアレンジは、いつ頃から山下さんの中で、リアルに聞こえてくるのでしょうか?譜面を見たらワーッと頭の中で鳴り出すとか…。

 いや、実際に合わせてみるまでは、まだまだ藪の中。
 MIDIのデータをつけてくれるアレンジャーもいて、鳴らせば聞こえるはずなんだけど、やっぱり皆でスタジオに入って、「せーの」でやるまでわからない。



── 今回のリハーサルはいかがでしたか?

 アレンジャーにも立ち会ってもらってね、事前に5時間のリハーサルをやったんだけど、全8曲のうち、4曲までしかできなかった。で、残りは当日の今日、2時からのリハーサルで、全曲通して、難しいところをもう一度やり直したら、もう開演時間になってた。メンバーは全員、自分のスタイル持っているソリストで、何でも初見でやりますというスタジオ・ミュージシャンじゃないからね。納得いくまで演って、皆の音が融け合うところまでいって、はじめてアレンジの良さも見えてくる。


── 今夜の本番のステージはいかがでしたか?確か、ビッグ・バンドでのステージは、「PANJAスイング・オーケストラ」以来でしたね。

 イヤ、ホントはアレンジの進行の中で、自分が自由になるためにやっているんだけど、今日はまだまだ、自分の発想の中で、自分がもがき苦しんでいるという感じかな。


── やっぱり、自分が自由になることが、ビッグ・バンドの演奏の目的なんですね。

 ウン、普段はキッカケから、リズムのキープ、構成を考えるのも自分の仕事のわけだけれど、ビッグ・バンドならコンダクターにまかせられるからね。しかも、フリージャズのアレンジだから、相当自由にできるように構成されている。


── すると、今夜の8曲のアレンジは、山下さんにとって、とても大切な財産ですね?

 モチロン。だってこの譜面を持って、ニューヨークに乗りこんで、あっちでメンバーを編成してライブをやるつもりなんだからね。ラヴィ・コルトーンに話したら、絶対参加するって言っていたし、ジョー・ロヴァーノも演ってくれれば最高なんだけどね。
 今回の初演でわかったことも大きいけれど、まだまだ課題もいっぱいある。例えば、ニューヨークでコンサート・マスターは誰がやるのか?とかね。



── 5月のニューヨークが楽しみです。




ニューヨーク・トリオでベースをつとめる絶妙のパートナー、セシル・マクビーと、ドラムスをつとめるフェローン・アクラフにインタビュー。

【セシル・マクビー】

── もう何年も山下さんとトリオで演奏を続けていますね。例えば、沖縄音階やクルドのリズムまでジャズにしてしまう、山下さんの曲や演奏をどう感じていますか?

 彼は世界中に通用する才能を持ったアーティストだ。世界中の音楽、文化、風土を理解していて、かつ、とても純粋でオリジナリティのある、本当の意味でのジャズ・マスターといえると思うね。もちろん、ニューヨークのジャズやブルースとはルーツが違う。私に日本の音楽のルーツがないようにね。
 だけど音楽は、誰もが話すことのできる、世界言語のようなものなんだと思う。だからいつも、期待以上のインプロビゼーションが生まれてくる、ヨースケの音楽をいっしょにやるのが、とても楽しみだ。



── 日本のジャズファンに一言。

 とても洗練されていて、音楽のことをよく知っていて、いつも熱心に聞いてくれる。音が鳴っていても、聞きもしない国や街もあるんだけどね。日本のリスナーは、ひとつひとつの細やかな表現にも、反応してくれるからとても好きだよ。それに親切だしね。


【フェローン・アクラフ】

── 今回はビッグ・バンドでたくさんの日本のプレイヤーと演奏されました。共演の感想はいかがですか?

 国籍は関係ないよ。我々だって異なった文化から生まれたフォームで演奏することはあるよ。だから、ジャンルに名前がついていると便利なんだ。「ジャズ(あるいは、ブルース、ソウル)を演奏する」というだけでいいからね。なにも「20世紀中期のアフリカ系アメリカ人のクラシック音楽(あるいは、20世紀初頭のアフリカ系アメリカ人の民俗音楽とか、20世紀後半のアフリカ系アメリカ人のダンス音楽)をやる」などという必要はないんだ。
 情熱的に演奏するとき、日本で生まれ育ったミュージシャンたちには、慣れ親しんだその文化が反映されるね。日本人はモラルを保ち細部にこだわって練習するから、高い集中力と信頼性という演奏上もっとも大切な技能を獲得する。フォームに素早く適応する能力は、我々が日本人ミュージシャン達と共有できた別の力だと思う。ジャズ・マスターたちの過去の名盤が容易に手に入るのも、日本人にとって有利な点だね。 よく聞かれるのは、私が生得的には持っていない「感覚」をどのように判断しているかということだけど、これは純粋に個人的なテクニックだね。それが即興やグループ・ダイナミクスと同じように重要なら、能力は日々変わり得るのさ。誰も安穏としてはいられないし、挑戦しがいのあることだからね。



── 山下さんの曲には、クルディッシュ・ダンスの9拍子をはじめ変拍子の曲が多いですが、大変ですか?楽しんでいますか?

 ヨースケの変拍子の曲や無拍子の曲を、我々は楽しんでいるよ。私は意識的にこうした特質を研究し自分の中で育んできたから、世界中の多くの音楽の真価が分かるんだ。
 アメリカ生まれの音楽、特にポピュラーミュージックには、こうした要素が甚だしく欠けている。それは多分、産業革命以来どんどん悪くなっている、単色的で攻撃的な戦争に至る意識と関係しているんだと思う。無リズムか少なくとも多リズムの状態で何を楽しみうるかについてもっと学ぶ機会があれば、我々も様々な物事や生き物、ハーモニーをもう少し楽しむことができたかもしれないのにね。



2000年11月8日


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